色川武大「喰いたい放題」

喰いたい放題 (光文社文庫)

喰いたい放題 (光文社文庫)

ところがそれが、なんともヴィヴィッドで、かわいくて、貴重なものに見えて、生唾がわくほどうまそうにみえた。ああ、こういう食事というものもあるのか、と思った。
<食を尊重する姿勢がものをうまそうに見せる例 「大喰いでなければ」より>

いわゆる日常の食、美食ではなく飽食にベクトルの傾いた一冊。
言ってみりゃ小説とかで何気なく出てくるメシ話のノリをエッセイでやってみました、といった感じ。
「だって腹が減ってるんだもの」という視線で書かれたメシ話は素直にうまそうに感じるからいいですね。
私はあまり食えないクチなので、「胃袋以外の内臓の調子が悪くてあまりバクバク食えないですよ」という前提に感情移入。
満腹でも食いたいし、制限されてても食いたいし、ていうか気持ち悪いし、もう何が食いたいとか考えたくもないけど、でもやっぱり食いたい、みたいな、満腹まで食った後の滅亡したい感覚はなんなんでしょうね。色川さんはそれを胃薬で片付けるとか堕落してんな、でもそれがよい。


単純なメシ話だけでなく、食材にまつわる風景・風俗、「食う」ということ、そういったことについて書かれていてなかなか興味深い。トリビア的な意味ではなく。