マイクル・ディブディン「血と影」

血と影 (ミステリアス・プレス文庫)

血と影 (ミステリアス・プレス文庫)

私の苦悩は、私の善行は、ともかく意味があるのか? 私は今度は、赦しに値すると判断されるのだろうか? あるいは、愛に値すると?<犯人の独白より>

イタリアの刑事警察ゼンが、大富豪の家で起こった密室殺人の謎を解くために奔走する物語。
だということを、オチ近くで意外なる犯人が登場してきたところでようやく思い出しました。どこに焦点を絞って読めばいいのか、海外ものはとかく悩んでしまいますが、*1本作はおそらく、ゼンの周囲そのものに焦点を絞って見るのが正しいのでしょう。
ゼンの母親に対する愛憎と、ゼンの警察機関に対するうんざりっぷり、密室事件とは直接関係のないところでの危機一髪がむしろクライマックス。血なまぐさい何者かによる独白が随所に挿入されますが、あまりの「ゼンが主役」っぷりに、その独白が一体どれだけ物語の読み方に影響を及ぼしたのか。なんかこう、初読では途中から邪魔っぽくすらありました。犯人が分かり、エンディングを迎えてもう一度読み返して初めて味わい深い。ふむ、ならばこれはこれでいいのか。
シリーズものですので、他の作品を読んでゼンというキャラクターについて把握し、比較検討できなければ、私的には「イタリアを舞台にしたちょっと変わった警察小説」で終わってしまうのが残念です。


余談ですが、なんだか翻訳が固い。

*1:恐らくこれは、視点が定まらないところに原因があるばかりではなく、小エピソードの交え方がやたらめったらであることにも起因するような気がする。しかし海外ものはどうして、かくも多くの小エピソードが登場し、時としてそれがあたかも物語の主題であるかのように振る舞うのだろうか