古野まほろ「天帝のはしたなき果実」

天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス)

天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス)

えー、読むのに二週間かかりました。
青春劇、ブラスバンド、暗号、推理合戦、アリバイ崩し、作者からの挑戦状、歴史まで絡めた動機の深淵さ、終焉の崩壊感、そして薫り高き衒学性。およそエンタメミステリの楽しみ全てが詰め込まれた作品。
おおおおこう書くと何だかすごく楽しそう! 今すぐにでも読み返してそのミステリの芳香を味わいたい!
とまっったく思わねえのが逆にすごい。
基本的に文章はペダンペダンペダン、とにかく一つ一つの会話・文章に必ずといっていいほどよく分からない衒学性を滲ませ、なんだかすごく読みにくい。黒い水脈の中では「黒死館」に酷似した表現ですが、ぶっちゃけ黒死館が心底合わなかった私にとって相当つらいものがありました。
京極夏彦山口雅也あたりの、テーマごとに一度に蘊蓄を語る現代的かつわかりやすく親切でスマートなペダンティックに慣れてしまっていると、このテの意味がはかりにくい上に散文的なペダンは「うすたギャグが合わない人がうすたギャグを読んでいる感じ」なんでしょう、非常にキモいものに映ります。あくまで私の場合。
筋立て自体は結構面白いものであると思いますし、いろいろなミステリの面白さをふんだんに使った贅沢な構成はいいと思いますが、とにかく読みにくい文章と、リアルに痛々しい高校生のようなセンスの言い回しが、やばいくらい読み進めるのを辛いものにしてしまっています。
根性で読み通しましたが、ペダンと本筋の関連について、なんかもう理解できた自信がまったくありません。
これ、もう少し時間が経って、私が本読みとして成熟すれば本当の面白さが解るのでしょうか。
あらゆる意味で次回作が気になる方です。