浦賀和宏「八木剛士史上最大の事件」

八木剛士史上最大の事件 (講談社ノベルス)

八木剛士史上最大の事件 (講談社ノベルス)

「誰も殺されなくても、あなたは素敵だよ」
<帯の文句より、素晴らしい気休め 松浦純奈>

前作「上手なミステリの書き方教えます」のアレでソレな枝葉は一切なかったように八木の物語です。
彼をめぐるイジメの構図は、過剰すぎてほとんどリアリティがないために、ユヤタンの作品のような悲壮感はありません。しかし、八木の自意識過剰で妙にナルシスティック、かつ「俺は一般の連中のようなDQNとは違う」とばかりに中途半端なモラリストを気取る、そんな思考はホンマリアルでキモいですね。他人事とは思えません。
で、とりあえず今回の話の主軸も前作同様登場人物、今回は八木のぐだぐだ。
事件らしい事件は起きず、ひたすら内省的なオタクの独白が続き、一作目・二作目の「洋画ファンの書いた何だかフツーの青春系ミステリ」という市井の評価をひっくり返しつつあります。いや、もうひっくり返っているか。
安藤直樹シリーズのような妙な行き当たりばったり感は見えないので、シリーズ構成を見据えて書いているのだと思うのですが、これは続きが楽しみ。
SFなのか、ミステリなのか、コケティッシュで鬱々とした青春小説なのか、現時点では分類が難しい感じです。
何とかシリーズとしての結末を見るといい。浦賀さんがんばれ、超頑張れ。