内田百輭「冥途」

冥途―内田百けん集成〈3〉   ちくま文庫

冥途―内田百けん集成〈3〉 ちくま文庫

何という事もなく、ただ、今の自分が悲しくて堪らない。けれども私はつい思い出せそうな気がしながら、その悲しみの源を忘れている。
<思い出せないうすぼんやりしたかなしみとそうでないかなしみ 冥途>

内田百輭の初期短編集。どれくらい初期かというと大正ヒトケタ世代の小説です。
感じたことは解説がかなり的確に表現してくださっているので、私ごときがわざわざ特に言うことはないのですが、焼き直しのつもりでもう一回。


夏目漱石の「夢十夜」のように、和製の悪夢的な世界が展開しますが、「夢十夜」と違ってテーマが解りにくく、具体的に何を言いたいのかがおぼろげです。おぼろげどころか殆どよくわからんものまであります。
どこか茫洋とした語り口のせいで、怪談のようなのにどこか他人事のようで、滑稽にもなりきれず怖くもなりきれない、他人の悪夢の話を幻視するような感覚と言いましょうか。
こういうのもたまにはいいですが、こういう幻想小説ばかり読んでいると、思考が類似したイメージで覆い尽くされて戻って来られなくなりそうです。


持っている版の書影がなかったので、まったく関係なさげな出版社の書影でお送りしております。


追記
夏目の「夢十夜」を読み返してみた。
「冥途」と比べてそう解りやすいかどうかと問われると、別にそうでもなかった。
今日のエントリは意味なしである。