渡辺容子「左手に告げるなかれ」

左手に告げるなかれ (講談社文庫)

左手に告げるなかれ (講談社文庫)

「右の手でよいことをしても左手には教えるな。これはたぶん、よいことをするのはむつかしい、でもよいことをしたあとで、これを自分の胸にだけしまって誰にも話さないでいるのはもっとむつかしい。こういう教訓ですな」
<マタイ伝第六章、山上の垂訓について 源老人>

江戸川乱歩賞受賞作。
万引犯を捕捉する保安員の女性が主人公のミステリ。と言うとなんだか日常モノっぽいですが、普通に長編のミステリです。
序盤では主人公の保安員っぷりに、中盤では被害者の女性の偽善者っぷりや右手とは何だったのか、みたいな謎を追いかけていてとても刺激的だったのですが、正直結末には期待ハズレでした。
結局主人公が保安員として主婦に対して抱いていた複雑な気持ちや、被害者の偽善者っぷりや、右手の謎*1やらが全部うっちゃられた結末には正直「え、これでいいの? この物語はこの方向でいいの?」と思ってしまいました。
そもそもの謎の発端が「ダイイングメッセージ」という、面白くする難易度が高い題材でありますし、そこいら中に『これがヒントですよ』みたいな符丁を仕込みながらも、真相に気づかせない*2手腕は結構なのですが、せっかくいいタイトルなのに、そのタイトルの意味が結末に特に関係ないっていうのがなあ。
徹頭徹尾、左手と右手が関係する物語であってほしいと思うのは、やっぱり私が頑固だからですかね。

*1:謎自体の解決はしましたが、あの理由は少しベタすぎるような気も

*2:むしろこれが真相だったら暴れるぞという感じで脳内に浮かばなかった可能性とも言えるが