色川武大「百」

百 (新潮文庫)

百 (新潮文庫)

父親が死んだら、まちがいの集積であった私の過去がその色で決定してしまうような気がする。誰に対してまちがっていたのか、何がまちがっているのか、それすらも正確にはわからないが、とにかく、身幅の中だけに埋まり、内心の納得だけを頼りにここまできて、錯誤だけが堆く積ってしまった。私のこれまでの日々はただそれだけの長い時間だったが、それでも何とか、断罪だけは回避したい。
<おやじ、死なないでくれと念ずる、自分のために 『永日』>

土砂降りの日に持っていったらえらいことになりました。申し訳ない。
川端康成文学賞受賞作所収の短編集。
短編集といっても、同じテーマを扱った連作的私小説で、連作集と言った方が正解かも解りません。
コンプレックスの塊である主人公が、規範である父親を畏れたり離れてみたり、喪失を怖れても何もできなかったり、いわゆる「父と子」の関係を描いたにしては、憎悪とか勝敗とかそういったものから無縁な描写が非常に新鮮でした。
規範としての父に対する息子の心象として、こういうのがあり得るんだな。ダメ人間というキャラクターはまだまだ計り知れないものがある、と無駄に感動してしまう始末。
これは何度か再読してしまうでしょう。

  • 『連笑』

一発目はおやじはあまり関係なく、弟との話。すんません、萌えました。だって、嫁さんに逃げられた弟のために飯を作ってやって家事をやってやって、それでも生活スタイルに食い違いが出てきて、結局別居しようということになり、最後に二人で旅行しようとか、一体この筋は…。何だろう。もう。

  • 『ぼくの猫 ぼくの猿』『百』『永日』

おやじ三連作。教育パパによる抑圧編、立場の逆転による困惑編、規範の喪失危機による焦燥編。あ、こうして分割すると綺麗に時系列順に並んでいるんですね。道理で読みやすかった筈。*1

*1:こうやって整理していかないと、こんな当然のことにも気づけないね